Uetani Lab

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【論文】湿度制御下での熱拡散率測定技術

Humidity-responsive thermal conduction properties of bacterial cellulose films
Shogo Izakura, Hirotaka Koga, Kojiro Uetani

Cellulose, 2021, 28, 5363–5372. (2021年4月24日)
DOI: 10.1007/s10570-021-03888-6

【研究成果のポイント】
● 湿度制御下で熱拡散率を測定するシステムを開発。
● セルロースナノファイバーフィルムの熱拡散率は含水率に反比例する。
● 吸湿性材料における熱拡散率の精密評価に役立つと期待。

【概要】
吸湿性の高さはセルロース素材の避けられない特徴であり、精密活用に向けて各種物性の湿度依存性が重要となります。セルロースナノファイバー(CNF)はポリマー材料の中では高い熱伝導性を示すことが知られ、各種伝熱機能材料が報告されてきました。一方で、湿度を制御した環境での伝熱測定が技術的に困難であり、吸湿が熱伝導特性に及ぼす影響は不明確でした。

大阪大学産業科学研究所の上谷幸治郎助教らの研究チームは、スポット周期加熱放射測温法による非接触の熱拡散率測定系に導入可能な密閉チャンバーを開発し、特定の湿度を維持した環境下でCNFフィルムの熱拡散率を評価する測定システムを確立しました。各種飽和塩水溶液を用いて調整した相対湿度11~93%の雰囲気下で、チャンバーに固定したCNFフィルムを長期間養生し、平衡含水率に到達させた後、密閉して熱拡散率を測定しました。その結果、相対湿度の上昇に伴って面内方向の熱拡散率が低下することが判明し、熱重量測定により得られた含水率に反比例しました。一方、実験的に得られた熱拡散率の低下は、水とセルロースの単純な複合則で予測される低下率より大きいことが判明しました。CNFフィルムでは、水分がフィルム内空隙だけでなく繊維間界面にも挿入的に吸着することで、より顕著に物性が影響されると考えられます。

本測定システムは、飽和塩水溶液をシリカゲル等に置き換えることで乾燥状態での熱拡散率測定も可能であり、より広範な湿度環境中での伝熱物性が評価可能となります。本研究成果は、国際学術誌「Cellulose」電子版に掲載されました。